真っ青な冬空のもと御殿山にある「原美術館」を訪れた。
御殿山は一昨年前に完成した「御殿山の家」の現場監理でよく足を運んでいたので懐かしい思いがした。
小高い丘の上にあり、名が示すように気高い雰囲気を兼ね備える街並である。
ご存じのように江戸城を作った太田道灌のお屋敷があったところでもある。この御殿山であの江戸城の築城が練られていたわけだ。江戸時代、将軍の鷹狩の折りに休憩した品川御殿があった場所であったことから「御殿山」と呼ばれている。近くには御殿山貝塚もあり縄文時代から古墳時代までの生活史跡も見つかっている。

「御殿山の坂」

「御殿山の坂」の標識も由来が記されている。
JR大崎駅を降りていつもの近道を行かずに、わざわざ「御殿山の坂」を登るルートを選んだ。
この坂、東京の名坂のひとつであり朝日新聞などでも記事になっていたことがある。もともと急な坂だったらしいが、今は何回かの工事を経て緩やかで登りりやすい坂に整備されている。
その坂を登り終え、ミャンマー大使館の近くに「原美術館」が静かに佇んでいる。
美術館の建物は1930年代のモダニズム建築で渡辺仁が設計をしたもので1938年竣工している。もとは「原邦造邸」として建てられた住宅だったが、後に美術館に変身する。建築史上、貴重な存在とされ今も多くの人に愛され続けている建築のひとつだ。
ちなみに原邦造氏は、愛国生命・明治製糖・東武鉄道・東京瓦斯の各社長、日本航空初代会長を歴任した戦前の日本を代表する実業家である。

「原美術館」玄関

「原美術館」

中庭に面するレストラン

アート中庭。イサム・ノグチの彫刻もある。
さて現在美術館では、「オルファー・エリアソン 影の光」展 が企画開催されている。
「オルファー・エリアソン」はデンマークのアーティストで、光・水・風といった自然要素を使って私たちに体験・知覚させてくれるインスタレーションを展開してくれる。表現方法は異なるにしろ、私がいつも頭の中でイメージしている建築においての自然の感じ方が共有できたらと思って出かけた次第だ。
各展示室でひとつのインスタレーションがあり、人の感性を覚醒する仕掛けが巧みになされている。
仕掛けは全部で10個。

「オルファー・エリアソン 影の光」
「美/Beauty (1993)」
「美」は天井にセットされたノズルから細かい霧がフロアーまでスクリーンを作り、そこに光を照射することで虹がいろいろな表情をつくり出すインスタレーション。見る方向、ちょっとした空気の振動で表情を変える霧は幻想風景を生み出す。オーロラってこんな感じなのだろうか?あくまでイメージのお話!
「単色の部屋と風が吹くコーナー」は壁の一面のみが全部オレンジ色に光っている。ふと気付くと男も女もみんな「モノトーン(白黒)」に変身している。いままで存在していたいろいろな色が、オレンジの一色だけで消されてしまった。不思議な気持ちになると同時にどこか不安な気持ちが展示室で芽生えてくる。もう出ようと思ったところ、出口で上から下まで小さな扇風機が生温い風を身体に送り込んでくる。空間の驚きと知覚の変化を短時間に味わえる不思議な場であった。長い時間はステイできない!
あまりディテールを記してしまうと行こうと思っている人の楽しみを奪うといけないのでここまでにしよう。
もうひとり、光の芸術家として忘れてはならないのが「ジェームス・タレル」。金沢21世紀美術館では「タレルの部屋」なる空間まで作られている。彼との作品比較を自分なりにしてみるのもいいだろう。
私が大好きな「知覚・体験」のできるインスタレーションを味わえた休日。
3/5(日)までこの企画展、好評につき会期延期されている。
将軍が鷹を片手に狩りする光景を想像しつつ、ゆっくりと「御殿山の坂」を登って「原美術館」で芸術に触れてみるのはいかが?