元気の出る小説を紹介しよう。
奥田英朗の「サウス・バウンド」。
2004年の「空中ブランコ」で直木賞受賞となり、その後の待望の第1作である。
私と同じ歳ということもあって、精神に問題あるかのような精神科医が活躍する「空中ブランコ」発表以来の大ファンである。
同じ主人公が登場する「イン・ザ・プール」も生きていく道を明るく暗示してくれる痛快小説である。
どの本も読みながら一人で笑み(または笑い)をこぼしてしまうくらい面白い。
3冊セットでお薦めしたい。

さて「サウス・バウンド」は前半を東京、後半を沖縄西表島に舞台を変えて、個性ある家族が中心となって話がテンポよく展開していく。
上原二郎はゴク普通?の小学6年生。元過激派で自称フリーライターの一郎を父に持つ。母さくらも過去に秘密を持ち、二郎は12才の誕生日までそのことを教えてもらえない。妹の桃子も小さいながらしっかりした正当派小学生。姉の洋子は不倫中。
奥田英朗作品に出てくる人物はとても明解なキャラクター設定がなされていて、まわりを巻き込んみながらも必ず一本、筋のある生き方をしているところにいつも共感してしまう。家族の中でお互いを見つめあうそのベクトルの絡みあいが見事に展開しつつ、最後には「お見事!」と叫びたくなるような結末を迎える。そこに奥田小説で描かれた「弾けんばかりの勢い」と「ほんのりした人間愛」のバランスを見い出すことができるのである。
子と親が言葉を通じなくとも理解しうるところ、饒舌な言葉で会話しても理解しえないところ、小説にちりばめられたそんな光景を読みながら「家族の絆」ってきっとこういうもんなんだな!と最後は感動してしまうパワーを持つ。
主人公の二郎の視点も、父を意識しながら東京での友達との小さな世界から、西表島に移住してからの大きな世界へ広がりをみせてくれる。その時初めて「自然と文明」「個と社会」「夢と現実」などいろいろな問題が自分の前に立ちはだかる。そんな時いつもそばに、一郎やさくらの純粋な後ろ姿があるのだ。
さくらと一郎が琉球の地から南にある自由の楽園「パイパティローマ」にむかうシーンは、涙を誘うというよりは、生きていくための強さを暗示させてくれるものとなっている。
元気な時はより一層元気に、気分の塞いでいる時に読めばすぐ元気になれる一冊であろう。
ただ痛快なだけでなく、いろいろな社会問題・文明問題なども含んでいることもより一層この小説の魅力を引き立たせていることは間違いない。
なにより読み終わったあとの爽快感がたまんない!
春の予感がする今日この頃、「サウス・バウンド」を片手にいかが?
さくらと一郎って、昔演歌歌手でいましたよね。
ちか~ら~の限り生きたからみ~れ~んなどないわ~♪ と今、頭の中で演歌が…助けて~!